『くじら図書館』好評をいただきありがとうございます。本書は細かいところに「あ、そういう意味が込められているのか!」と気づかされる箇所があり、きょうはその一つ「献辞」についてご紹介します。献辞というのは、本の冒頭などに「~に捧げる」などの文章が載っていますよね、あれです。『くじら図書館』の場合は、「ダヴィット・メルヴェイユに感謝を捧げる」として、著者ジドルーの言葉があります。

ジドルーは30年近く前にも、世界で一番大きな海の図書館を体内に持つくじらの物語を書いています。(『くじらと海賊』という児童書で、今は絶版の模様)その『くじらと海賊』の絵を担当したのがダヴィット・メルヴェイユでした。『くじら図書館』の冒頭でジドルーが、「この物語にはかつて別の人生があった」と書いているのは、その本のことを指しているのでしょう。そしてジドルーが「波打ちぎわへと置き去りにされた」その本を、拾って、焚き火で乾かし、文をひとつひとつバラバラにして、再び言葉に命を吹き込んだら――全く別の『くじら図書館』という素敵な物語が生まれた、というわけです。

実は最初、この献辞の意味するところがわからなかったので、どう訳出すべきか迷っていました。その後に上記の経緯がわかって、なるほど!と腑に落ちたのです。だから『くじら図書館』のP71,72の描写(濡れた本を焚き火で乾かすシーン)にも著者ジドルーの思いが込められているのだと合点がいきました。『くじら図書館』を読むと、過去と現在と未来をつなぐ一つの「線」のようなものを感じます。本書の生まれた経緯を知ったら、さらに強くそれを感じるようになりました。

『くじら図書館』の2刷は8月1日発行予定です。未読の方、ぜひ!