1年以上前。ブックデザイナーの松昭教さんと雑談している時、
「緻密な絵を描く人を探しているんですよ」という私に、
そういう人は少なくなってしまった、と松さんが答えました。
理由を尋ねると、
「緻密な絵は、描くのに時間がかかるから」とのこと。
年間およそ350点もの装丁を手がける松さんの話をきいて、なるほどそういうことか、と思いました。
本を発行する場合、一般的にカバーの絵(装画)にかける時間は、2週間~3週間くらいが多いそうです。
1か月もかけられるケースは少ない。つまりイラストレーターは、装画の発注を受けた後、
2~3週間のうちに構図を固め、絵を完成させてしまわなければならないわけですから、
めまぐるしいサイクルです。「納期」が迫る中で、だんだんと「描くのに時間がかかる絵」を見る頻度が
少なくなってしまったのでしょう。
松さんは「でも緻密な絵を描くイラストレーターが減ってほしくはない。
そうでなければ、みんなが同じような絵になってしまうから」と言いました。
何においてもスピードが求められる時代。「時間がかかるもの」は敬遠されがちで、
装画も例外ではないのだと考えながら、帰宅したことを覚えています。
その夜だったか、松さんからメールがきて、
「ところで、こんなに緻密な絵を描く人もいるんですよ」と紹介されたのが、村尾さんだったのです。
私は、その絵の緻密さと繊細さに一瞬で魅了されました。
例えば、下記『空をつくる』のカバー。
家の屋根に生える芝生の「芝」1本1本を丹念に描き込んでいます。
その下の絵では、家の壁から足もとの石畳にいたるまで、フリーハンドで細い線を描き入れています。
定規はいっさい使わず、1本1本、ペンで描く、‘手間’をかけた絵。
村尾さんは「職人」のような画家だ、と私は思います。