自分が親になるまで、たぶん「読み聞かせ」という言葉を知らなかった。初めて知ったのは…たしか第1子の「3か月健診」の場ではなかったか。
生まれて3か月目に受ける市の乳児健康診断。まだ抱っこの仕方もおぼつかない私が、
ドタバタオロオロしながら子どもの診断を終えて、疲れたーやっと帰れる!と思って長いすから腰を上げようとしたとき、
60歳前後の女性がにっこりと微笑みかけてきた。女性は絵本を片手に「市から絵本のプレゼントがあるから、この場で読み聞かせしますね」というようなことを言った。
私は、「へ?え?絵本を?えっとでもあの、まだこのオサルのようなニンゲンの子どもは生後3か月で…読んでもらってもよくわからない。
いやぜったいわかるわけない!と思いますけど…」とはもちろん言えず。
私とまだオサルのような娘だけに向けて、至近距離で女性が読む『じゃあじゃあびりびり』を、狐につままれたような気持ちで聞いた。
絵本と一緒に貰ったコットンバッグには、「赤ちゃんに絵本で語りかけよう」というようなキャッチフレーズが印刷されていた。
正直に言えば、こんな小さな赤ちゃんの時から絵本を読む人がいるのか、という驚きの方が大きかった。
 後に、これが乳幼児へ絵本を贈る活動「ブックスタート」だったと知る。
ブックスタートは市や区など自治体の事業として0歳児健診時などに行われていて、全国1018の市区町村で開催されている(NPOブックスタート調べ2017年10月)。
 ところで、下記の写真は、私の仕事机前にはってある新聞の切り抜き。
2016年8月17日の朝日新聞「ひと」欄。ブックスタートを発案したウェンディ・クーリングさんの紹介記事だ。
これによると彼女は、絵本を読み聞かせることについて“教育的な効果は重視しない”とのこと。
そして「難しく考えないで。赤ちゃんが好きなのは親の声を聞くことなのよ」というクーリングさんの言葉で記事は締められている。
彼女の考え方を知って、私はほっとした。ああ、絵本を読んで聞かせるというより、「親の声」を聞かせると思えば良かったのだなぁ、とやっと気づいたから。
娘の3か月健診で絵本を読みきかせしてもらった時に感じたわだかまりのようなもの、
「まだ赤ん坊には絵本なんて早すぎるのでは?」という疑問がすーっと消えていった。
 そういえば私の子がまだ小さいころ、九州から手伝いにきた70代の母が、寝かしつけるのに「五木の子守歌」を歌ってたことを思い出す。
「おどまぼんぎりぼーんぎり ぼんからさーきゃーおーらんとー…♬」これがとっても暗~いメロディなのですよ。(熊本の民謡だそう)。
母が歌う五木の子守歌を聞きながら「なんで赤ん坊にそんなに暗い曲を歌うかな!?」と心の中でつっこみつつ、私も口ずさめることに気づいた。
ということは私が赤ん坊だったころ、母が歌ってくれていたのかもしれない。
当時は片手間に歌う子守歌が、「親の声」だったのでしょう。
 子守歌に代わって、今は寝かしつけにも絵本が読み聞かせられる時代。
自宅や、保育園幼稚園、小学校でも、積極的に読み聞かせが行われている。
本をつくる仕事をする立場から言えば、それは大変ありがたいこと。
でもそれだけじゃなくて、読み聞かせがすなわち「親の声を子に聞かせること」という原点も忘れずにいたい、と思います。