昨夜は出版関連のトークイベントを聞きに行った。登壇したのは4人。
創業230年!の紙屋さん、創業100年の印刷屋さん、ベテラン装丁家さん、それから出版社の社員さん。
出版不況の中、本の製作費を削らざるをえないという話、
コストカットがここまで来ている、などの実情が聞けて、とても面白かった。
 
さてイベント終了間際、会場からの質疑応答の時間に最初に手を挙げたのは、中国人の男性だった。
20年以上前に来日し、現在日本で出版社を経営しているという。
その方は、失礼ながら少したどたどしい日本語で、
「日本の本は美しいです。世界に誇れます。その価値に気づくべきだ」と情熱的に訴え、
だからコストカットのために画一的な本を作るのは、良くないです!と想いのこもった“喝”を入れた。
この男性の奥さんが、間違って洗濯機で日本の本を洗ってしまった時、
本の糊がとれずに形が崩れていなかったのをみて感動したと言う。
私も洗濯機の中でぐるぐる回る本を想像しながら、感動していた。
そして、この中国人男性のような気持ちになったことが私にもあったと、思い出した。
 
それは学生時代、アメリカに留学していた時のことです。
近くの店で買ったパンツ(“下着”じゃ伝わりづらいので、ストレートな表現でスミマセン)が
数か月で割けて破れたのには驚いた。
え、パンツって破れるものなの?
日本で買ったパンツはびよーんと伸びることはあっても、破れはしないぞ!と。
そして、「日本のパンツって素晴らしいじゃないか!」と思ったものです。

えーーっと話を戻します。

登壇者の一人、ベテラン装丁家さんは、
装丁を「本に晴れ着を着せて、表へ出す仕事」と表現した。だけど
「出版社側がコストカットを求めるので、つい、高くつく装丁のことは考えないようにしてしまう」
と苦笑いを浮かべていた。

イベントからの帰り道、私の頭の中を巡っていたのは、
出版不況、コストカット、洗濯機の中でぐるぐる回る本、びりびりに破れたパンツ…。

勿論私も赤字になる本は作れません。
だけど、データでも本が読める時代に、それでも紙の本を買う、買って貰うのなら、
モノとしての魅力は欠かせない。
こう書いてしまうと実に当たり前のことなんですけどね。     

あの中国人男性の話が聞けたことに感謝しています。
来月には、小社1冊目の装丁が待っています。

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※写真は束見本(つかみほん)。
 印刷する前に、本の開き具合や手触りを確かめるための見本です。